茶の間でおま。

本とかテレビとかすきなものたち。

伊吹有喜「カンパニー」(再)(21)

再読したらめちゃめちゃ感動して大泣きしたんですけど!

 

タカラヅカの舞台の「カンパニー」についてはあんまり考えないようにしていたし、あれはわたしのすきなひとの退団公演であってそれ以上でもそれ以下でもない、っておもってたけど、でもこうやって原作を再読してみるといろいろと腑に落ちることだらけでどうしてこれがああなったというきもちでいっぱい。一番耐え難かったのは、那由多がトイレにこもってるってところで笑いが起きたことかな。あの時の那由多は二軍から一軍に昇格するかどうかの瀬戸際で、その成功はこのバレエ公演にかかってて、そこで勝負をかけるためにリフトの大技に挑戦して、その那由多の焦燥感もバンバン伝わってきて、だからこそ舞台では今になって大技投入とかあほちゃうんっていうようなあの流れにも説得力があって、そこで勝負を賭けることの意味っていうのがちゃんとあったのに。そこでまさかの相手の肋間膜損傷。指に残る内臓と骨の感触。公演の失敗だけじゃなく、一軍昇格が露と消えた瞬間だったはず。舞台が終わったと同時に一軍トップ就任が発表されるはずで、舞台脇には大きなケーキも準備されていて、兄貴分のメンバーたちがみんな観に来てて、そんな中での事故。そりゃ吐くでしょ。舞台に立てるメンタルじゃないでしょ。そういうのがざっくりと省略されてただアイドルが甘えたこと言ってるだけのあの状況ではそりゃ「トイレ」って言葉に反応して笑いが起きたのも分からんでもないし、おそらくそこでの笑いは意図したものではないだろうけど(そうであってほしい)笑いが起きてしまったことを良しとせずなんとか違う方へと変えてほしかった。最後なんとか舞台を成功させてみんなが新しい道へそれぞれ旅立っていく前段階での大きな出来事が、あんなにあっさりと笑われて終わってしまって、そのあとに感動なんてできるはずないじゃん。舞台では唐突に阿久津さんがうちのかわいい那由多にバレエらしいことをさせてやりたいってトンチキなこと言い出して、リフトの大技を入れてくれってめちゃめちゃ空気をかき乱して、どうしてもあの阿久津さんの心に寄り添うことができなくて阿久津さんの顔めちゃめちゃかっこいいなーっておもうことしかできなかったんだけど、あれだって焦る那由多が先走ってリフトしたい!って青柳さんに直談判してそれから阿久津さんが出てくる流れが原作じゃないですか。オデットに説得力がない、紗良は大根役者だっておもしろいくらいに煽って、那由多の昇格をめいっぱいの演出で祝おうとした。あの「兄さん」たちがアカペラでつないだっていうのも、那由多にとってはプレッシャーだったのかもしれない。そういうの、だいじでしょ。那由多が追い詰められた過程が、とってもだいじだったとおもうのよ。

あと、世界の恋人である高野さんと、国民的アイドルグループが共演する新旧イケメン対決の異種格闘技的な興業であるにもかかわらずチケットが売れないっていったいどういうこと???って疑問しかなかったんですけど、それも高野さんの年齢と体調を鑑みて途中降板が囁かれていたとか、那由多のファンには中高生が多くてお高いバレエのチケットはなかなか買えないとか、めちゃめちゃ納得できる理由が説明されてて、そういうセリフこそ必要だろうがよーーーって吠えました。おもにあの研究所のくだりを思い出しながら。文学青年の青柳さんが月がきれいって言うくだりもまるっといらn

それから、舞台での美波さんは自分が思いを寄せる青柳さんには奥さんがいるって知ってたっぽいのに、それでも自分のきもちを隠さずぐいぐい前のめりな感じが完全にアウトだったんですけど、やっぱり奥さんと離婚したっていうのを死別したっていうのに変えたのはよくなかった気がする。結婚に失敗したっていうこととかも会社のリストラ要員になって左遷されてバレエ団に出向させられた戦力外通知を受けたパッとしないサラリーマンという要素のひとつだったのに、そしてバレエ団のカンパニーとそれこそひとつのことに一緒に取り組んで何かを成し遂げることによって大きく成長することができたんだっていう、その成長譚のひとつとして感動を与えたというのに!誠二さんは!!なにひとつ!!成長してないじゃないですか!!!!!むしろ最初から最後まで誠実でいい人でイケメンでさあ!!!!!!そもそもが間違い過ぎてる。前提が違う。何に感動しろっていうの。

・ユイユイがバレーボールの選手だったって舞台でなにか説明あったっけ?突然「全日本のセッターでした」って言うてなかったっけ。ユイユイがバレーやってたっていうのも大事な要素だったとおもうんだけど、努力だけじゃどうしようもならないってあたり、舞台ではめっちゃ薄くなってたよね。

・「ファンもアンチも根っこはいっしょ」って那由多のセリフじゃないですか!

・紗良の踊りに対して「違和感が」あったって言うてるの山田取締役じゃないですか!

・相撲のたとえを出してるのも山田取締役じゃないですか!

・こういう元あったセリフを違う人物に言わせるのって、ただそのセリフを使いたかっただけで、誰が話したってことは重要じゃないんだなっていうのがめっちゃ伝わって来てその雑さにほとほとうんざり。

・実力はあるのに本番に弱くて地味なのは美波だけじゃなくて蒼太もそう。那由多が出てくる前までは、もしかしたら王子役をやれるかもしれないっておもってて、事故で那由多が踊れないかもしれないってなった時にはもしかしたら代役で出られるかもしれないって少なからずおもってて、でも一人アウェーに乗り込んできた那由多のことは嫌いになれなくて、そこが己のハングリー精神のなさだっていうのもちゃんと自覚してて、そういうもどかしさが蒼太にもあったんですよう。ただの明るいイケメンアルバイターじゃない。

・とてもよい補完ができた。よいお話だった。よいカンパニーだった。

・あ、文中に出てきたビールはハイネケンだったwBudweiserじゃなかったよ!