深水作品は「五声のリチェルカーレ」「人間の尊厳と八〇〇メートル」に続いてみっつめ。
深水氏とはあんまり相性はよくないんだけど、なるほど音楽がお好きなんですね(ざっくりしすぎる深水氏についての知識
表題作はいかにして名器のヴァイオリンを閉鎖した空間から盗み出すかっていうクローズドミステリなんだけど、犯人ズのキャラクタと動機があんまりにも軽くて面食らいました。この天才風来坊ヴァイオリニストの甥と警視庁捜査一課警部補の叔父のコンビというのはシリーズものなんですかね、というくらいに唐突な設定でした。
二編目が、ワーグナーマニアのワグネリアンたちのドタバタ劇がふたつとそのふたつの登場人物たちが一同に会してマニアックなクイズ番組で死闘を繰り広げるというアレで、あとがきで作者が決して楽屋オチを意図したものではないと言われてますけど、門外漢からすればいったいどこが楽屋オチなのかということすらピンともペンともこない始末で、これはきっとわかる人にはとてつもなくたまらんのだろうなぁーと遠い目になるしかなかったです。
そして最終編がこれまた馴染みのない漢字にルビがふりまくられてて、ああ、そういえば表記にものすごくこだわりのある人であったと思い出したんですけど、そのこれでもかと出てくるまるで満漢全席のような表現のてんこもりで、うわぁ・・・っておもったら、なんとこれが今から30年前に書かれた正真正銘の処女作だと言うではないですか。なるほど。青い。青くて苦い。